第7回 イーサリアムキラー 前編
暗号資産?
よくわかんないけど怖い。
なんか難しそう。
そんな印象を持っている方もまだまだたくさんいると思います。
この連載では、暗号資産企業に勤める『中の人』がお客様の目線で「暗号資産の投資体験」をすることで、改めて暗号資産の疑問や不安と向き合い、解消していくことを目指します。
今回は、「イーサリアムキラー」と呼ばれる、イーサリアムのライバル銘柄を紹介していきます。
1. 独自の時計で圧倒的なスピードを誇る
まずはイーサリアムキラー筆頭のソラナ(SOL)から紹介します。
「複雑な分業(L2)を嫌い、独自の時計(PoH)を使った圧倒的な単独スピードで『Web3界のiPhone』を目指す、不死鳥の超高速チェーン」です。
ソラナの大きな特徴は「はやい」「やすい」です。
これはイーサリアムのレイヤー2銘柄でも見た特徴ですが、ソラナは独自の仕組みによってこれを叶えています。
ソラナの肝となる仕組みは「PoH(Proof of History)」です。
中央の管理者がいないブロックチェーンの世界には、「全員が信用できる1台の時計」が存在しません。そのため、もしブロックチェーンで「各自のパソコンの時計で取引の時間を記録してね」とやってしまうと、「10分前に送金したことにして!」とウソの記録を送れてしまいます。
だからビットコインやイーサリアムは、「時間を計る代わりに、めちゃくちゃ難しい計算問題を解いた順番で並べよう(PoW)」とか「みんなで話し合って順番を決めよう」としていたわけです。
そこでソラナの開発者は「順番にしか解けない計算を、ひたすら超高速で繰り返せば、その計算回数自体が『時計(時間の証明)』になるのでは?」と思いつきました。
これが「時間を暗号で証明する(Proof of History)」の正体です。
時刻を見ているのではなく、「絶対に0.0001秒かかる計算を1万回やったから、1秒経過した」という「時間の経過」を暗号で可視化しているんです。
従来(BTCやETH):
「俺の時計は12:00だ」「いや俺のは12:01だ」と揉めるので、いちいち「じゃあどれを正解にするかみんなで話し合おう(あるいは計算競争しよう)」と作業が止まる。
ソラナ(PoH):
「100万回目の計算の瞬間にこの取引が起きた」という確固たる暗号の証拠(パラパラ漫画の何ページ目か)があるため、揉める要素がゼロになり、話し合いなしで全員が瞬時に順番を確定できる。
これがはやさの所以です。
ソラナには他にも並列処理を叶える「Sealevel」や、超高速な投票システム「Tower BFT」という仕組みがあります。これを踏まえてソラナの取引の流れをまとめました。
- ① Sealevelが「マルチレジ」で同時処理する
ユーザーから取引が送られてくると、Sealevelが瞬時に中身をスキャンします。「Aさんの送金」と「BさんのNFT売買」など、お互いの口座データが重なっていない取引をすべて見つけ出し、100台あるレジで一斉に同時に処理します。 - ② PoHが「時間のハンコ」を押して順番を固定する
同時処理された取引たちに対して、PoHが「パラパラ漫画の〇ページ目(この瞬間のタイムスタンプ)」という絶対に偽造できない時間のハンコを押します。これにより、後から誰が見ても「どの順番で起きたか」が話し合いなしで一目瞭然になります。 - ③ Tower BFTが「超高速投票」で絶対確定させる
PoHのハンコを見たバリデーターたちが「この順番で間違いなし!」と一斉に投票します。PoHのおかげで無駄な通信がなく速攻で全会一致し、時間が進むほど「前言撤回ペナルティ」が跳ね上がるため、わずか数秒で二度と変更できない『最終確定』となります。
ソラナはあまりにも処理スピードを追求しすぎたため、システムを動かす「検証者(バリデーター)」には、モンスター級の超ハイスペックなパソコンと通信環境が要求されます。また、過去には取引が殺到しすぎてネットワーク全体が一時停止してしまう事件が何度も起きました。
さらに、強力な後ろ盾だった大手取引所の経営破綻事件に巻き込まれ窮地に立たされました。
しかし、そこから開発者たちがシステムを改善し続け、現在では「Firedancer」と呼ばれる次世代の処理システムを開発し、V字回復を遂げています。
2. 数学的な完璧さを追求する学術要塞
次にカルダノ(ADA)を紹介します。
「スピードを犠牲にしてでも論文ベースで数学的な完璧さを追求し、ビットコインの堅牢さとイーサリアムの利便性を融合させた、絶対に止まらない学術要塞」です。
カルダノの創設者チャールズ・ホスキンソン氏は、イーサリアムの初期の共同創設者の一人です。しかし、イーサリアムの設計や運営方針に納得できず、「自分ならもっと数学的・学術的に完璧なブロックチェーンを作れる!」と独立して立ち上げたのが、このカルダノです。
カルダノの特徴はソラナとは180度違います。
① 論文ファーストの査読主義
暗号資産のプロジェクトの多くは、「とにかく早く作ってリリースし、バグが出たら走りながら直そう」という思想を持っています。
しかしカルダノは、これを「金融インフラを扱う上で絶対にやってはいけないこと」と全否定します。
新しい機能を実装する前に、まず「数学的に絶対に安全か」を証明する論文を書きます。それを世界中の大学教授や暗号学者にチェックしてもらい、「完璧だ」とお墨付きをもらってから、初めてプログラムのコードを書き始めます。
開発は遅くなりますが、その分、ネットワークがダウンしたり、致命的なバグでハッキングされたりといった事故が起きない超堅牢なシステムを実現しています。
② 構造の違い
イーサリアムが渋滞してしまう理由の一つに、「お金の移動」と「複雑なアプリの処理(スマートコントラクト)」を、全部同じ場所でゴチャ混ぜに処理していることが挙げられます。
カルダノはこれを防ぐため、システムを「完全に独立した2つの階層」に分けて作りました。
- 1階:CSL(経理部)
「AさんからBさんに〇〇ADA送金した」という、シンプルなお金の移動だけを専門に処理するフロア。 - 2階:CCL(法務・開発部)
「もし〇〇の条件を満たしたら、自動で契約を実行する」といった、複雑なアプリの計算だけを専門に処理するフロア。
こうすることで、2階でアプリがものすごく混雑していても、1階の送金処理には一切影響が出ず、常に安全でスムーズな取引ができるようになっています。
③ ビットコインとイーサリアムのいいとこ取り
暗号資産のお財布の管理方法には大きく2種類あります。
| ビットコイン型 (UTXO) |
「1000円札」「500円玉」のようにお札や硬貨の単位で厳密に管理する仕組み。ハッキングに強いが、複雑なアプリ(スマートコントラクト)を作るのには向いていない。 |
|---|---|
| イーサリアム型 (アカウント) |
銀行口座の残高のように数字の増減だけで管理する仕組み。アプリを作るのは簡単だが、複雑になりすぎるとバグや隙が生まれやすい。 |
カルダノは、「ビットコインの強固なセキュリティ」をベースにしながら、「イーサリアムの複雑なアプリ」を動かせるようにした『eUTXO(拡張UTXO)』という独自のハイブリッドシステムを開発・採用しています。
また、カルダノは、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)の一種である「Ouroboros(ウロボロス)」を採用しています。
PoWは1番に計算が終わった人に報酬が支払われる競争形式です。一方ウロボロスは1秒という細かな枠組みの中で『今回のブロックを作る担当者』が暗号くじ引きで決まります。担当者は自分の番が来たら静かにハンコを押して次にバトンを渡すだけ。競争がないため、超ハイスペックPCは不要で、誰もが普通のパソコンでネットワークの維持に参加できます。
派手なDeFiブームに乗るよりも、アフリカの国家インフラや教育IDシステムなど、「絶対にミスが許されない領域」で着実にシェアを広げるカルダノ。スピードよりも「数学的な完璧さ」を愛する人にとって、これ以上なく魅力的なブロックチェーンと言えるでしょう。